I.はじめに
 「変形菌」と言った場合、細胞性粘菌や原生粘菌を含んだ意味で使用する場合も見られるが、日本変形菌研究会では、「変形菌」は真性粘菌(真正変形菌)を、「粘菌」は細胞性粘菌や原生粘菌を指すことに統一されつつある。 本論文で扱っているのは真性粘菌(真正変形菌)である。 2002年10月現在、世界の変形菌は893種143変種25品種で合計1061種類が知られ、日本では453種83変種22品種、合計558種類が記録されていて、変形菌分類学は日本でもかなり進歩してきている。 しかし、変形菌の生態については解明されていないことが多く、また方法論も確立されていないので、この分野はこれからの研究課題であるとも言える。 現在のところ変形菌の生態についてまとめられた文献は殆どないので、今まで書き溜めてきたものに、国際変形菌分類生態学会議での報告などを追加して、現在までの情報をまとめてみた。 これから変形菌を研究する方の参考になれば幸甚である。 本論に入る前に予備知識として変形菌の生活史を簡単に述べると次のようになる。まず胞子が水中で発芽して単細胞のアメーバ状の体(粘菌アメーバ)または鞭毛を持った遊走子が出現する。この二つは相互に変換が可能である。 ふつうは粘菌アメーバや遊走子は接合する。その後は餌を摂取し、核分裂を繰り返して成長をとげ、多核の変形体となる。 変形体は適当な条件下で子実体を形成し、ふつうは子実体内で減数分裂が起こって胞子が形成される。 その際、光が子実体形成の条件となっている種類もある。また、ときに不適当な条件下では変形体が菌核を形成して休眠することもある。