X.変形菌の発生基物
少数の変形菌は発生基物をあまり選ばないように思われるが、針葉樹の腐木を
好む種、広葉樹の腐木を好む種、広葉樹の樹皮を特に好む種、常緑広葉樹の落葉を
好む種、落葉広葉樹の落葉を好む種などと、あるていどまたは絶対的とも思える基物
選択性が見られる例が希ではない。フウセンホコリ属の種はしばしば広葉樹の樹皮を
好み、アミホコリ属の多くの種は針葉樹の腐木を特に好む。カタホコリ属は落葉や
その他の植物遺体の上に子実体を形成する種が多く、ケホコリ属はたいてい腐木上に
発生する。また、シラタマウツボホコリのようにクリのいがを特に好むものや、
エナガウツボホコリやタマゴホソホコリのようにクリの雄花穂などを特に好むものもある。
ときに植食動物の糞を発生基物とするものも知られている。しかし、発生基物の選択が
二種類以上にわたる場合も多い。例えば、Keller (1996)はヒモホコリ属を発生基物により、
腐木の樹皮や材に発生する種(マルヒモホコリ、ヨリソイヒモホコリ、コカクヒモホコリ、
タマノセヒモホコリ)、リターを好む種(エツキヒモホコリ、スミレヒモホコリ、
アキヒモホコリ、コヒモホコリ、Perichaena reticulospora)、両方に発生する種
(イモムシヒモホコリ、トゲヒモホコリ、コヌカホコリ)とに分けている。ついでに言えば、
アキヒモホコリはこれらの中で唯一、秋にのみ発生する種である。Eliasson(1996)によれば、
ふつうマツなどの生木の樹皮に発生するイトエダホコリが、ハワイではキク科ギンケンソウ属の
一種の腐った茎組織に発生していたと言う。日本でもモモワレコホコリは生木の樹皮にしばしば
発生するが、腐ったアジサイの葉や落枝にも発生する。シワホネホコリは生木樹皮に多いが、
落葉にも発生することが希ではない。ワガタホネホコリはふつうは落葉に発生するが、
腐木のコケ上にも発生する。その他にも種々の例がある。
X-1.発生基物と変形菌の種類わけ
変形菌の変形体には這い回る性質があるとは言え、その子実体の発生基物はほぼ決まっている
種類が多い。従って変形菌を発生基物によって次のように分けられることがある。土の上や
草本の生体(土中変形菌humicolous)、植食動物の糞(糞変形菌fimicolous, coprophilous)、
担子菌の子実体(きのこ変形菌fungicolous)、地衣類(地衣変形菌lichenicolous)、
コケ類(コケ変形菌bryocolous)、高等植物の草本遺体(枯草変形菌herbicolous)、
高等植物の木本では、生木の樹幹(生木変形菌corticolous)、生葉(生葉変形菌epiphyllous)、
枯死体の樹幹(死木変形菌lignicolous)、枯死した葉・花・果実など(リター変形菌foliicolous)。
しかし、これらの呼称の正確な定義付けはなされていないので、曖昧な場合も多い。Moroz(1996)に
よれば、ベラルーシでは135種の変形菌が知られているが、コケに32種、針葉樹のリターに24種、
広葉樹のリターに20種、草本の生体に8種、草本遺体に8種、硬質菌に4種、地衣類に3種、
シダ類に2種が見られたと言う。
X-2.土中変形菌(humicolous myxomycetes)
土壌の構造はL層(リター層)、F層(腐葉層)、H層(腐植層)、A層(上層土)、
B層(下層土)、C層(風化母材)、D層(母岩)などに分けられ、H層以上をAO層ともいう。
変形菌は土の上に発生する場合は、土に腐植質(humus)が含まれているAO層で生活しているもの
と考えられる。また、生きた草などに変形菌が発生する場合は、腐植質やリター層に住んでいる
種が這い上がったものであることが多い。腐植質は好気性細菌などが植物遺体を分解するとき、
酸素の供給が悪いときにできる不完全分解産物で、フミン酸(腐植酸)、リグニン、タンニンなどが
含まれているという。低温、酸性土壌、栄養塩が少ないときは微生物の活動が妨げられ、腐植化が
増加する。針葉樹は揮発成分が多いので、分解され難くて腐植化の割合は大きい。腐植質は洞穴と
似た環境だと言われ、陸生甲殻類(端脚類)や昆虫類などの土中(腐植質)動物が多い。
古い記録では、Tom & Raper(1930)は土とリターを湿室培養して2種の変形菌を得、Warcup(1950)は
寒天培地に土を振り撒いて変形体が発生するのを観察した。日本ではモモイロモジホコリ、
クサムラサキホコリ、ホソミホネホコリはふつう、土の上または生きた草のみに発生するので、
完全な土中変形菌に近いと思われる。また、枯草変形菌との区別が難しいが、次のような例が
報告されている。芝生にハイイロフクロホコリが発生することはよく知られていて、変形体が
大発生して芝生が青色を帯びて見えることもあるという。イチゴの苗などをジクホコリの変形体が
覆って被害を与えた例も報告されている。温室ではテッポウユリなどの栽培植物の葉に、
ススホコリやネズミススホコリなどが付着して、葉を汚した例なども知られている。これらは腐植質や
敷藁などで成長した変形体が、植物体に這い上がって結実したものであろう。
X-2-1.石灰岩と変形菌
石灰岩には炭酸カルシウムが多く、この地帯に生育する樹木には特殊なものが知られている。
変形菌の中でも、モジホコリ目には炭酸カルシウムが肉眼で見えるほど多量に含まれている。
従ってこの仲間は石灰岩地帯に多いのではないかと想像されてきた。例えば、Jarocki(1931)は
ポーランドのカルパチア山地に石灰性変形菌が少ない理由として、この山が主として砂岩のフリッシュ
構造でできているためだと言った。Carr(1939)はバージニア州の砂岩地帯と石灰岩地帯を調査した結果、
石灰性変形菌は石灰岩地帯に多いと結論した。Dvoakova(2002)はチェコのボヘミアカルストと
ヘベニー山脈の変形菌を調査した結果、ボヘミアカルストで84種、ヘベニー山脈で68種の変形菌を得た。
カルスト地帯で変形菌が多い理由としては、石灰岩によって植生が複雑になっているためではないか
と考えている。しかし、街路樹などの生木樹皮にも石灰性変形菌が多いことや、雨水に含まれる
カルシウム量などから考えても、石灰岩と変形菌の間に明確な関係があると結論するのは難しいように思われる。
X-2-2.蛇紋岩と変形菌
珪酸含有量が45%以下の火成岩を超塩基性岩と言い、カンラン岩や蛇紋岩がこれに入ると言う。
日本で広く分布している蛇紋岩にはマグネシウムが多くて炭酸カルシウムは少なく、クロム、
ニッケル、コバルトなども含まれていて特殊な貧栄養性の植生が見られる。この植生に付随する
変形菌についての報告は全く見られず、これからの研究課題となる。
X-3.糞変形菌 (fimicolous or coprophilous myxomycetes)
植食動物の糞にはときに変形菌が発生することが知られている。これらの殆どの種は偶発的に
発生するが、ごく少数は絶対的な糞生菌だと考えられている。古い記録では、Lister(1925)が
スリランカでゾウの糞にトゲヒモホコリが発生したことを記述している。Nannenga-Bremekamp(1974)は
ガチョウの糞からも変形菌を得ている。Eliasson & Lundqvist (1979)によると、古い糞を湿室培養すると、
約1カ月またはそれ以上経過して、培養用のシャーレの底に敷いた紙がボロボロになった頃によく
変形菌が発生するという。最も発生率が高いのはウシの糞で、続いてノウサギ、ウマ、アナウサギ、
ヘラジカ、ノロジカ、ヤギなどのものが高率で、そのほかオオライチョウ、ロバ、ラクダ、
レミング(タビネズミ)、ライチョウ、バッファロー(水牛)、シカ、ディクディク(レイヨウ類)、
ダイカー(レイヨウ類)、エランド(オオレイヨウ)、雑食動物、クロライチョウ、イモムシ類などの糞に
変形菌が発生したという。Keller & Eliasson(1999)は糞を好む変形菌としてArcyria elaterensis、
Badhamia apiculospora、B. rhytidosperma、B. spinispora、Didymium annulisporum、D. nullifilum、
D. rugulosporum、Kelleromyxa fimicola、Licea alexopouli、L. pescadorensis、Macbrideola coprophila、
フンヒモホコリ、Perichaena luteola、Trichia brunnea、T. fimicolaをあげている。そして、
Kelleromyxa fimicolaやTrichia brunneaなどの胞子壁が非常に肥厚しているのは消化液に耐性をもつ
ためだと考えている。またカタホコリ属では20種、ヒモホコリ属では10種の糞変形菌が知られているが、
アミホコリ属ではスミレアミホコリ1種のみしか発生が記録されていないことに注目している。
日本では糞変形菌の研究は甚だ不充分である。
X-4.キノコ変形菌 (fungicolous myxomycetes)
変形菌には担子菌の子実体(キノコ)を食べる習性のある種が知られている。ブドウフウセンホコリは、
しばしば秋にブナの腐木に発生した、ブナハリタケなどのキノコと一緒に採集される。Buchet (1939)は
フランス中部でサラモジホコリを採集したが、ジャワで採集されたタイプ標本、以前に採集された
フランスの標本、ドイツとオーストラリアの標本はすべてキクラゲ類と一緒に採集されたことに
注目している。現在ではこの種はキクラゲ類を好んで食べる性質があると考えられている。
フィンランドのHaerkoenen(1978)は、アンズタケ類に属するキノコの傘の下に付着したルリホコリ属の
一変形菌を、新種Lamproderma puncticulatumとして発表した。しかし、この場合は食性とは関係なくて、
偶発的な現象だと考えられている。
X-5.地衣変形菌 (lichenicolous myxomycetes)
樹木上に地衣類と混生して変形菌が発生することはしばしば観察される。しかし、両者の間に種間関係が
あるのかどうかは不明である。一般的には、地衣類が発生している場合は樹木が古い証拠と考えられ、
空中に散布された胞子の付着する割合は高いものと推定される。したがって、変形菌の発生種数は
多くなると思われるが、逆の場合もある。ジュズホコリはドイツ北部の荒れ地に生じた地衣類ハナゴケ属の
一種の上で発見された。その後もドイツでは秋(10-12月)にハナゴケ属の地衣類に発生することが知られ、
地衣類との結びつきが非常に強い種とされている。しかし、近年ではカシ類の腐葉やマツ類の落葉などからも
この種が採集されているので、絶対的な種間関係ではない。産地もドイツの他にスウェーデン、デンマーク、
ロシア連邦、イギリス、米国、ジャワなどからも報告されている。
X-6.コケ変形菌類 (bryophilous myxomycetes)
コケは含水量が大きいので、しばしば変形菌の発生基物となっている。アメリカのStephensonら(1985)は、
52種の変形菌と55種の蘚苔(コケ)類が共存している170標本を調べた結果、バルベイホコリとキララホコリは、
腐りつつある針葉樹の材に生える葉状苔類を好む変形菌だと結論した。またLicea hepaticaもこの仲間に
入るだろうと推測している。筆者はメダマホコリもこの中に入るのではないかと思っている。また、
ブドウホネホコリもこのような環境を好む。より大形のコケ類を好む種もあり、ワガタホネホコリは
ふつう夏にクリなどの落葉に発生するが、秋に発生する場合には、針葉樹の材に生えたかなり大きいコケに
発生する。生木変形菌でも樹幹に生育するコケとの結びつきが強いと思われる例は多い。しかし、
水分の維持や餌の供給などでコケが発生基物として有利とは考えられるが、絶対的な関係があると言うことは
難しい。Lister (1925)によれば、ミズゴケの生育している湿地にはBadhamia lilacinaやキララホコリが発生
すると言っている。しかし、日本でのこのような採集報告は未だない。私の経験では、木本や草本は生育
していなくても、水の滴り落ちる崖の岩場に生育するコケ類の上には、ときにシロジクキモジホコリや
シロフウセンホコリなどが見られる。英国ではこのような環境にルリホコリ類が発生しているのを見たことがある。
シロフウセンホコリなどはふつう生木変形菌と言われているが、実際はコケを好んでいるのかも知れない。
メキシコのEstrada-Torresら(2002)はPhysarum alvoradianumなどは熱帯の岩に生えたコケの上に発生すると言う。
X-7.高等植物と変形菌
維管束と根のある高等植物はふつうシダ植物と種子植物に分類され、種子植物は裸子植物と被子植物に
分けられる。変形菌はふつう、ある特定の植物を基物として選択することはないとされているが、
結びつきがかなり強い例も多い。
X-7-1.枯草変形菌
枯れた草や植物体の一部が枯れた草本に発生する変形菌で、落葉などのリターに発生する変形菌
とは若干異なっている種類も見られる。日本ではハイイロフクロホコリ、ナバホネホコリ、
エダゲカタホコリ、イモムシヒモホコリなどがふつうに見られる種類である。
X-7-1-1.羊歯(シダ)植物
オシダなどのように葉が叢生する種類に付着している、古い枯れた葉の葉柄基部には、しばしば
オシアイフクロホコリなどの変形菌が発生する。山地では好雪性変形菌がヒカゲノカズラ類に
付着している例もしばしば見られる。しかし、後者の場合は偶発的なものであろう。このようなシダと
変形菌の関係については調査が極めて不充分である。
X-7-1-2.双子葉植物
双子葉植物の草本では、刈り取られて放置された植物遺体や立ち枯れしたアザミなど、多汁質で
柔らかい部分には細菌などが豊富なためか、変形菌が多く発生している。特にこのような基物に
発生する種として、ヒメウツボホコリ、アミエカタホコリ、リスターカタホコリ、エダゲカタホコリ、
ハンゲツカタホコリ、バイアカタホコリ、ナバカタホコリ、イボミカタホコリなどがあげられる。
また、カイコの餌として収穫されながら、放置されてしまったクワノキの葉などにも、同じような
変形菌が発生するが、エツキヒモホコリは特にこれを好むように思われる。
X-7-1-3.単子葉植物
単子葉植物では、稲わらや枯れたススキの根元などに変形菌が多く発生し、ドセイカタホコリ、
フタカタホコリ、イモムシヒモホコリなどが見られる。温室などでよく栽培されているパイナップル科の
アナナス類は円筒状の新葉や葉の付け根にはよく水が貯まり、下部には腐った葉も付着しているので、
変形菌の発生に適していると言える。Gottsberger(1972)はブラジルでアナナス類を調査して、ケホコリ、
シロサカズキホコリ、ベテルモジホコリ、ユガミモジホコリ、シロジクモジホコリ、シロジクモキジホコリ、
ナカヨシモジホコリ、シロモジホコリ、ホネホコリ、ヒメカタホコリ、Badhamia calcaripesを報告している。
タケ類の落葉の堆積した場所には、カワリモジホコリやサカズキホコリ類などがしばしば発生する。しかし、
この落葉は栄養不足のためか、変形体があっても子実体形成が見られない例が多い。腐った竹幹は軟らかい上に
多孔質であるためか、湿室培養すると、しばしばアシナガアミホコリなどが発生する。若いタケノコの
立ち腐れとなったものは酵母菌などの絶好の繁殖場所となる。その皮や幹には、しばしばカタホコリ類や
ユガミモジホコリなどが発生する。また、バショウやバナナなどの茎もタケと性質が似ているためか、
ユガミモジホコリがしばしば発生する。
X-7-2.多肉植物変形菌(Succulenticolous myxomycetes)
砂漠などに多いサボテン科やリュウゼツラン科やトウダイグサ科などに属する多肉植物の植物体には、
変形菌がしばしば発生し、ふつうの砂漠の変形菌と区別して多肉植物変形菌と呼ばれている。その理由は、
多肉植物は雨が降らなくても数週間はその独特の多肉組織に水分を含んでいるし、サボテンなどの下は
日陰ができて比較的涼しいなど、一般の環境の植物遺体と環境条件が異なるためだと言われている。
イトミフウセンホコリはとくにウチワサボテン類に多く発生すると言われ、米国アリゾナ州、
ガラパゴス諸島、ハワイ諸島、スペインなどのサボテンから報告されている。筆者の経験では
サウジアラビアのサボテンの湿室培養でもこの種が出現した。しかし、日本ではサボテン以外の基物からも
この種がしばしば見出されている。また、ウチワサボテンからはPhysarum spectabileとBadhamia grandisporaが
新種記載されていて、このサボテンの落下した若芽はよい発生基物であるといわれている。Erady(1953)は
生きているハシラサボテンに付着したムラサキホコリ類の一種を報告している。Lister(1925)はリュウゼツラン科
の植物と変形菌について、Macbrideの次の文を引用している。「Bethel教授は、オオフウセンホコリの典型品を
落下して腐ったウチワサボテンの茎と腐ったまま付着しているイトラン類の葉の基部に、冬に至るところで見いだした。
典型品と混生またはしばしば孤生し、イトラン類の葉上に発生した、1903年に送った円盤形の変形菌は
var. gracilis(現在のイトミフウセンホコリ)と呼ばれた。」Mosqueraら(1999)によるとウチワサボテンでは
腐敗の進行につれて、まずDidymium subreticulosporumが発生し、次いでコヌカホコリ、ユガミモジホコリ、
フタカタホコリやコホコリ属の一種、更に続いてCribraria zonatispora、スミレアミホコリ、ワラベキモジホコリ、
スカシカミノケホコリなどが発生すると言う。またトウダイグサ類にはマルヒモホコリやクロムラサキホコリが
多いと言う。Ladoら(2002)によれば、Cribraria zonatispora、 C. fragilis、 Didymium mexicanum、 Trichia agavesは
完全な多肉植物生変形菌だと言われている。
X-7-3.生木変形菌(corticolous myxomycetes)
生育しつつある樹木の幹の樹皮に発生する変形菌を生木変形菌という。しかし、樹皮が生きているのか、
死んだ部分が生木に付着しているのかが問題にされたことは殆どない。高等植物の木性シダ、裸子植物、
被子植物の生木樹幹にはコケ、地衣、陸生藻類などが着生することが多いが、おもに夏の梅雨明け頃には
多くの変形菌も発生する。しかし、着生物がないようにみえる場合でも、樹皮が多孔質であれば変形菌が
発生することは多い。Haerkoenen (1977, 1978)は着生地衣類などがある場合は変形菌の種数が増加すると言う。
その理由として空中を漂う変形菌の胞子が付着しやすいからだと考えたが、Stephenson (1983)は
この理由付けを否定した。その後、Haerkoenenら(2002)は中国の生木変形菌を調査した結果、多くの地衣類が
付着した樹皮に変形菌が少ない理由は、変形菌が有害な地衣成分に感受性があるからだと考えている。
Stephenson(1989)によれば、生木変形菌は樹幹の北面にやや多い傾向があるが、南面とそれほど差はないと言う。
日本でのデータは殆どないが、経験ではこのことは正しいように思われる。生木変形菌は森林中よりは、
森林内のギャップとか社寺や公園内の孤立した樹木の樹皮に多い。この原因は照度または湿度と関係があるように思われるが、
比較研究されたことはない。ハリホコリ属の種は他の生物に対する耐性が弱いためか、
着生植物が見られない裸の樹皮に多い傾向があり、湿室培養ではマツなどに多量に発生することが多い。
日本に産する生木変形菌はヤマシロホコリ、キノウエホネホコリ、ミカドホネホコリ、キヘビコホコリ、
イトエダホコリ、キノウエモジホコリ、ホソミブルックスホコリなど多数が知られている。しかし、
完全に生木にのみ発生する種類ではないものもある。例えば、ミナカタホコリやシロフウセンホコリは
ふつう生木変形菌とされているが、腐木上でも採集されている。樹木の枝の先端部は寒さや乾燥のせいで
枯れやすい。このような生きた木に付着している枯枝にも変形菌が多く発生し、イトタテカタホコリ、
ニセタチコホコリ、イモムシヒモホコリなどが見られる。これには地上リターを構成する落枝とは異なった
変形菌が発生している可能性があり、研究が進めば枯枝変形菌などと呼ばれる仲間になるかもしれない。
私の経験ではかなり興味深い変形菌の発生が見られる基物である。
X-7-3-1.木性シダ類と生木変形菌
木性シダのヘゴの幹は繊維の集合なので、保水性も強く、古くなるとしばしば変形菌が発生する。
日本ではシロジクキモジホコリやナバカタホコリなどのリター変形菌もこれに発生する。しかし、木性シダと
変形菌に関する報告は極めて少なく、その関係も明確ではない。
X-7-3-2.裸子植物と生木変形菌
裸子植物では、針葉樹(球果植物)のスギ、ヒノキ、マツ類、イヌマキ、イブキ、サワラ、ヌマスギ、
メタセコイアなどは樹皮が軟らかいので、コビトアミホコリ、ヒメアミホコリ、アシナガアミホコリ、
クロエリホコリ、フサホコリ、ヘソコホコリ、ハリホコリなどが多い。ソテツの樹皮は割れ目が多くて
深いので水が貯まりやすく、ときにシロウツボホコリやヒメカタホコリなどの変形菌の発生が見られる。
イチョウは樹皮が硬いこともあって被子植物と共通種が多い。日本では裸子植物に発生する生木変形菌
の種類と、被子植物に発生するものとでは種類がかなり違っている。その原因は樹皮の硬さや粗さや
水素イオン濃度の差などによるものと考えられている。Keller(2002)によれば、米国では平均pH=3.8の
ストローブマツではハリホコリ、Comatricha ellae、フサホコリ、シロモジホコリ、コビトアミホコリ、
クビナガホコリらが変形菌の代表種となるが、平均pH=6.7のトネリコ属の一種ではツノホソホコリ、
スミレアミホコリ、イモムシヒモホコリ、キノウエモジホコリ、テリホソホコリ、コガネホコリが代表種
になると言う。しかし、水素イオン濃度がなぜ変形菌の種類を決定する要素になるのか明らかではない。
X-7-3-3.被子植物双子葉類と生木変形菌
被子植物は樹皮が硬い種類が多いが、硬くてもムクノキなどの樹皮には割れ目が多く、変形菌がかなり
発生する。ムクノキにはクロガシラコホコリ、カワハリホコリ、キノウエホネホコリ、キノウエモジホコリ、
スミレアミホコリ、ミズサシコホコリなどが発生する。クスノキは被子植物の中では樹皮が軟らかく、
裸子植物と被子植物の中間的な樹皮の性質を示すので、種々の変形菌が発生する。また、ブドウなどは
つる性であるが、樹皮がイヌマキに似た性質をしていて、日本ではスカシカミノケホコリなどが
多く発生する。米国ではブドウの樹皮にミナカタホコリが多く発生するという。Wrigley de Basanta (1996)は
マドリードのトキワガシの生木の樹皮を湿室培養した結果、25種の変形菌を得ている。その中では
ツノホソホコリとMacbrideola oblonga、マガイフクロホコリ、Macbrideola synsporos、Licea nannengaeなどが
多かったと言う。Varela-Garciaら(1999)はメキシコの温帯林にある、樹皮が殆ど平滑なカシワ類の林と
針葉樹林(モミ林、マツ林、ネズミサシ林)の生木変形菌を調査した。その結果、最も種類が多くて多量に
発生したのはモミ林で、カシワ林が最も種数が少なくて少量しか発生しなかったと言う。このような例は
日本でもふつうに見られる。例えば、樹皮の粗いムクノキには生木変形菌が多く、樹皮が平滑なエノキ
には非常に少ない。
X-7-3-4.被子植物単子葉類と生木変形菌
日本でふつうに見られる単子葉植物は竹類であるが、生育中の竹類には変形菌はまず発生することはない。
しかし、ときとして街路樹や植木として植栽されているヤシ類の幹には繊維が残っている上に段差があり、
枝が腐っても付着したままで残っていることが多いので、変形菌がしばしば発生する。筆者は高知市の公園に
植栽されているヤシの樹幹からコスジアミホコリ、アシナガアミホコリ、シロモジホコリなどを採集したことがある。
Cavalcanti & Mobin(2002)はブラジルのサバナにあるビンロウジ科のヤシから45種の変形菌を得ている。
しかし、この場合は付着している腐った葉も含まれているので、厳密な意味では生木変形菌とは言えない。
X-7-4.生葉変形菌(epiphyllous myxomycetes)
生木の葉でも、熱帯などでは表面に微小植物が発生し、葉上地衣類、葉上藻類、葉上苔類などと呼ばれている。
これらの上には変形菌が発生することが知られている。Eliasson(1999)によれば、熱帯多雨林の樹木の葉に
発生したコケの上には、生木変形菌とされているキノウエホネホコリが発生し、葉の裏側にはその他の変形菌が
見られると言う。Schnittler & Stephenson(2002)はコスタリカ、エクアドル、プエルトリコで、
苔類の付着した生葉を湿室培養した結果、11種の変形菌を得ている。その中ではシロウツボホコリ、
ゴマシオカタホコリ、シロエノカタホコリの発生頻度が高く、ヒメウツボホコリも見られたと言う。
コケなどの着生物がない裸の葉でも、花が落下して付着したりする場合には変形菌が発生することがある。
筆者の経験では、ミカンの一種(土佐文旦)の大きな葉の上には、その木の花が落下して溜まっていることが多く、
梅雨明け頃にはこの上にカタホコリ類がしばしば発生する。このような場合は、高さ1m位の所の葉の上にも
発生が見られるので、変形体が地面から這い上がったとは考え難く、胞子が空中から飛来して発生したものと推測される。
このような場合は空中リター(aerial litter)に発生したものと考えたほうがよいであろう。
X-7-5.死木変形菌(lignicolous myxomycetes)
枯死した樹木の樹幹に発生する変形菌を死木変形菌と言い、発生する変形菌の種類が最も多い。これには
裸子植物を好む変形菌と被子植物を好む種類とがあるが、どちらとも言えないものも多い。また、殆どの種類は
樹皮と材との区別なく発生するが、特に樹皮を好む種類もある。死木変形菌は木材腐朽菌と何らかの関係が
あると思われる。木材腐朽菌は木材の成分であるセルロースやリグニンなどを栄養源として生活する菌類で、
硬質の担子菌が多くて1000種類以上あると言われる。樹種の選択性があるもの、生木を侵すもの、枯死木にのみ
見られるもの、辺材腐朽(sap rot)性のもの、心材腐朽(heart rot)性のものなどが知られている。しかし、
これらと変形菌との関係を研究した論文は殆どない。また、木材には細胞が大きくて細胞壁が薄い軽軟材から、
細胞が小さくて細胞壁の厚い重硬材まであり、日本本土ではキリが比重0.26でもっとも軽く、
ウバメガシが比重1.06で最も重いと言われている。このような材の性質と変形菌との間に何らかの関係があるのかどうか
、現在のところ不明である。枯死した枝が落下して変形菌が発生した場合、これを死木変形菌とするべきか、
リター変形菌とするべきかの定義はない。暫定的に、枝(branch)の中で、大枝(limb)と小枝(twig)で
直径3cm以上あるものに発生した種を死木変形菌、小枝(葉がついていない部分)の直径3cmに満たないものと
先端枝(spray)(先端部に葉や花がついていた部分)に発生した場合をリター変形菌と呼んではどうかと思っている
。Krezemieniewska(1957)は、ポーランドの変形菌ではアカススホコリ、アカエキモジホコリ、
ダテコムラサキホコリ、イクビマメホコリ、トビゲウツボホコリ、ウツボホコリ、トゲケホコリ、
キンチャケホコリ、ハチノスケホコリは広葉樹の腐った材を好み、アミホコリ類は針葉樹の材を好むという。
また、ガマグチフクロホコリ、ミドリフクロホコリ、ウリホコリ、ジクホコリ、ヤニホコリ、カタホコリは
適応性が大で発生基物の種類には殆ど関係がないと言っている。現在ではアミホコリ類が針葉樹を好むことは
広く認められている。また、アミホコリ類の変形体が腐木の表面に出てくることは希で、子実体形成時には
変形体が分散して、材の小孔から水滴のように沁み出してくる。従って変形膜は発達しないことが多い。
これに対して、モジホコリ類の多くの変形体は全体が材や樹皮の表面に出てきて這い回り、その後子実体を
形成することが多い。従って、明かな変形膜を形成することも多い。スミホコリ属の変形菌は殆どの種類が、
マツやツガの切株や枯れた立木の樹皮などに、おもに春または秋に生じる。また、マツ類の腐木は材が多孔質で
軟いせいか変形菌の発生量が多く、アミホコリ類のほかにフンホコリ、クダホコリ、コホコリ類などがしばしば
発生する。しかし、種類数はそれほど多くはない。その他、単子葉植物でもヤシ科のシュロの倒木の幹にある
繊維の上でファームラサキホコリを見つけたこともある。裸子植物の死木を好む種にはモミウツボホコリ、
バルベイホコリ、メダマホコリ、クモノスホコリ、カクミアミホコリ、メイランアミホコリ、
マルナシアミホコリ、ムラサキアミホコリ、アミホコリ、ダイダイホネホコリ、ブドウホネホコリ、
キホネホコリ、ヘソホネホコリ、フサホコリ、ムラサキドロホコリ、ルリホコリ、キララホコリ、
ヘビコホコリ、フンホコリ、タチフンホコリ、トゲミキモジホコリ、ヒメコムラサキホコリ、エツキコホコリ、
タチケホコリ、ナカヨシケホコリ、オオクダホコリ、コモチクダホコリなどがあげられ、特に樹皮に多く
発生する種にはスミホコリなどがある。被子植物の死木を好む種にはアオウツボホコリ、ミドリウツボホコリ、
ブドウフウセンホコリ、ドロホコリ、シロススホコリ、コンテリルリホコリ、イクビマメホコリ、
ハナハチノスケホコリ、ハチノスケホコリ、チョウチンホコリ、シロジクモジホコリ、タマモチモジホコリ、
イタモジホコリ、アカモジホコリ、ホシモジホコリ、フタナワケホコリなどがあり、とくに樹皮によく発生する
種として、オオフウセンホコリ、ハシラホコリ類、ソラマメモジホコリ、チチマメホコリ、トゲヒモホコリ、
ヨリソイヒモホコリ、シンチュウフクロホコリ、ホネモジホコリ、ヤリミダレホコリ、オオムラサキホコリ、
タマミカタクミホコリなどがあげられる。
X-7-6.リター変形菌(foliicolous myxomycetes)
樹木から落下した葉、枝、花、果実などが堆積した層をリター層(落葉落枝層)という。リター層は
ふつう林床で形成され、構成要素は落葉が最も多いので、リター変形菌を落葉変形菌とも言う。熱帯林では
樹木の枝に落葉などが溜まり、空中リター(aerial litter)を形成することもある。林床のリター層は低温や
乾燥や過湿などのために分解が阻害され、植物の群落密度が大きい状態でよく発達する。熱帯多雨林などでは
落葉は一斉に起こらず、落葉はすぐに分解されるので林床のリター層はあまり発達しない。この層で生活する
変形菌にはモジホコリ属やカタホコリ属の種が多い。子実体の形成はふつう、リター層の表面または表面直下で
行なわれるが、エツキヒモホコリやアキヒモホコリ、ときにホソミイモムシヒモホコリなどは、落葉などの
堆積したかなり深い場所で結実する傾向がある。落葉のたくさん堆積した所でも変形菌の発生が少ない場合は
多いが、崖などの斜面で落葉が堆積してトンネル状になった場所では、環境が湿室に似ていて、変形菌が多く
発生することが多い。リター変形菌の発生時期は、日本ではふつう梅雨明け頃と言われているが、暖かくて
降水量が多ければ5-6月に最も多く発生し、一度発生するとその後一年間は発生が見られない場合も多い。
従って、リター変形菌の採集や生態的な調査は適当な時期を選択しないと、殆ど成果が得られないこともある。
このことが原因となって変形菌が少ないと誤認される結果にもなり得る。リター変形菌は針葉樹の落ち葉には
少なくて広葉樹の落葉に多い。これは葉の大きさ、または葉に含まれている揮発性物質と関係があるかも知れない。
広葉樹の落葉でも、落葉樹と常緑樹とで発生する変形菌が異なっていることもある。これは葉のクチクラ層の発達と
関係があるのかもしれない。落葉広葉樹のリター層に多く発生する種としてはシラタマウツボホコリ、
コサカズキホコリ、ワガタホネホコリ、ハイイロホネホコリ、クラカタホコリ、タマゴカタホコリ、
スミレヒモホコリ、オシアイフクロホコリ、ヨリソイフクロホコリ、イオウモジホコリなどがあげられる。
常緑広葉樹のリター層に多い種にはムラサキサカズキホコリ、タワラニセジクホコリ、クネリカタホコリ、
シシガシラホコリ、ホソミイモムシヒモホコリ、エリタテフクロホコリなどがある。古い記録では、
Alexopoulosら(1968)がリターを材料に湿室培養をして、珍種Physarina echinosporaの標本を得ている。
フィンランドのHaerkoenen (1981)はハンノキ、カバノキ、トウヒ、マツ、ハコヤナギのリター層から
得た400試料を湿室培養して、14種の変形菌を得た。米国のStephenson(1989)は同様の培養を507資料で行って、
約70%に変形菌が発生し、34種を得たが、最も多く発生した種はシロウツボホコリであったという。
Blackら(2002)によれば、オーストラリアのクインズランドにある熱帯林の空中リター層ではシロエノカタホコリが
最も多く、次いでユガミモジホコリやコシアカモジホコリが多く見られると言う。日本では生育中の大きく伸びた
クズに付着している枯葉にしばしば変形菌が発生し、ブンタン(ミカン類)の生葉に花が落下して溜まった
場合などにも変形菌が見られる。これらは空中リターに発生した例と考えられる。メキシコのEstrada-Torresら(2002)は
熱帯に産する革質の葉の裏にある密生した毛には特殊な変形菌Calonema foliicolaが発生すると言う。Stephenson(2002)は
ニュージーランド北部に生育するニカクヤシの葉柄部は拡大して鞘を形成するが、茎から脱落すると鞘の縁が回旋して
閉じた空間を形成し、自然の湿室培養状態になるので、変形菌が多く発生すると言う。この葉から13属35種の変形菌を得た。
シロエノカタホコリが最も多く、続いてヒョウタンケホコリ、コシアカモジホコリ、ヨリソイヒモホコリなどが多く
発生したと言う。人工的なリターとも言える紅茶やコーヒーや緑茶の使用後の葉を室内に放置しておいたところ、
変形体が発生したという話も時々聞くので、これらは変形菌の発生に適しているかもしれない。
X-7-7.花変形菌(floricolous myxomycetes)
リター変形菌の中に、とくに種子植物の花を好む種類が知られている。梅雨時に、クリ、シイ、カシ類などの
落下して腐った雄花穂には、エナガウツボホコリやタマゴホソホコリが多く発生する。また、雄花穂の湿室培養でも
これらがしばしば出現する。今のところ、後者のその他の発生基物は知られていない。ツバキやアジサイの枯れかけた花、
ソテツの枯れかけた雄花穂などを湿室培養すると、しばしば変形体が出現する。特にアジサイの腐りかけた花には、
フィールドでも梅雨明け頃に、カタホコリ属やホネホコリ属などの変形菌の着生がしばしば観察される。
Schnittlerら(1999)は、熱帯のコスタリカやエクアドルでは巨大な草本の花序にしばしば変形菌が見られると言う。
例えばショウガ目の花は早く腐るが、まだ生きた状態で果実を包んでいる苞(包葉)の間に残存して雨水をよく含有し、
蜜も残存するので、細菌、酵母、粘液細菌類などが発生し、これを餌とする変形菌も多く発生するという。
エクアドルのオオホザキアヤメ属の一種では44花序の内で57%、コスタリカのバショウ科オウムバナ属の一種では
20花序の内、63%または79%に発生し(これらの花はハチドリによって受粉されている)、最も多い変形菌は
ホネモジホコリであったと言う。また、クズウコン科のトラフヒメバショウ属の一種では、エクアドルで17花序の
内で41%、同様にコスタリカでは20花序の内の50%に変形菌ユガミモジホコリやゴマシオカタホコリが見られたと言う
(これらの花はハチによって受粉されている)。Schnittler & Stephenson (2002)はコスタリカ、エクアドル、
プエルトリコにおいて、腐りつつある花から33種の変形菌を得たと言う。その内13種は花を好み、
6種は花に特殊適応していると言う。その中にはPerichaena dictyonema、キミミズフクロホコリ、未記載の
モジホコリなどが含まれている。
X-7-8.果実やその付属物に発生する変形菌(fructicolous myxomycetes)
フィンランドのHaerkoenen & Koponen (1978)はオオムギ、マカラスムギなど4種類の穀物を湿室培養して
Badhamia apiculospora(新種)、エダゲカタホコリ、ハンゲツカタホコリ、ハイカタホコリ、ゴマシオカタホコリ、
シロエノカタホコリの6種の変形菌を得た。シラタマウツボホコリが、クリの果実を包んでいるいがやその落葉を特
に好むことはよく知られている。しかし、Haerkoenen (1991)によると、タンザニアではバラ科植物の落葉にこの種が
たくさん発生するという。また、米国ではコサカズキホコリもクリのいがを特に好むと言われている。しかし、
日本ではコサカズキホコリとクリのいがとの関係はデータ不足で、今のところ断定することができない。
Davis & Butterfield (1967)は、バナナの果皮を湿室培養して7種の変形菌を得た。私は同様の方法で、
ユガミモジホコリを採集した。このことから考えると、落下して腐りつつあるバナナにはかなりの数の変形菌が
発生していると思われる。日本のヤマモモの果実は梅雨期に赤く熟すが、多汁質で甘酸っぱい果実は落下しやすいので、
木の下に多量の酵母や子嚢菌類などが発生する。これを餌として変形菌が大発生することが多い。
メキシコのEstrada-Torresら(2002)はCeratiomyxa sphaerospermaは熱帯果実に発生することが多いと言う。